アニメ

アニメーターとお金の話

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今日は最近インターネットのまとめサイトや一部マスコミでも報道され、盛り上がっているアニメーターの低賃金問題。こいつを取り上げます。

 

ちょっとまった!アニメーターとはなんでしょう?

実際の賃金問題にふれていく前に、アニメーターとはなんだね?ということを説明しなければなりません。

が、アニメーターを指す部分がどこまでの範囲を指すのかが、アニメ業界の中でも人によって曖昧です。

 

原画マン※1   (絵コンテ(以下に詳細)を元に、背景、キャラクターなどの動きのポイントを作る)

動画マン     (滑らかに動かすために原画と原画の間の絵を描く作業)

作画監督     (原画、動画を含めた絵全体の監督、責任者)

 

このあたりまでをアニメーターと言う場合と、上記の役職を含めたうえで

絵コンテ(マン) (脚本を元にして全体の設計図を書く)を描く人

演出      (監督と作品感を擦り合わせたうえ、細かい表情や、動き等の指示をする。絵コンテを兼任したりもする)

監督      (作品全体を統括する責任者)

 

こちらまでをアニメーターとすることも、ままあります。ジブリの宮崎駿監督の事をアニメーターと呼んだりしてますよね?(宮崎監督の絵に関する仕事はイメージボード、絵コンテ(脚本込)キーになる大事なシーンのレイアウト)

そしてもっと細かくいうと、アニメ内で3DCGを担当する3DCGアニメーターや、それをモデリング(素材を作る人)する人もいたり、背景を描く人もそう呼ばれることもあります。

 

いやいや、日本アニメーター・演出協会※2が定めるところによると、アニメに制作に直接関わる人全てを「アニメーター」と包括して呼んでいるのでごめん、なんかもう面倒くさい。

 

※1 (その作業を請け負う人に「マン」がつきます。ウォメンはおりません。カメラマンみたいなモンです)

※2一般社団法人 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)入っているひとは入っている。アニメ事業をしている人に保険とかセミナーとか有益な情報も教えてくれるよ!

 

アニメーターの低賃金問題に至るキッカケ

shirobako

上の画像はアニメーター低賃金問題の話題の一端となったアニメ「SHIROBAKO」※3のキャラクターを使って有志が作成したとみられる非公式のグラフです。非公式ですよ非公式!

ここ数か月ネット上でアホみたいに出回りましたね。

アニメーターの現状が(相変わらず?)惨憺たるものだと、多くの記事やまとめが上がりました。

NHKニュースが一ヶ月半前の4月28日に「アニメ若手制作者 平均年収は110万円余」と報じたのも話題の一因となりました。

かと思えば

exiteニュースで「アニメーター「年収110万円」報道はウソ?平均333万円、最頻値は400万円だった」

なんて反証記事も。

 

しかし、結論からいうとどれも正しくありません

間違いとまではいいませんが、説明が足りていないのです。

 

先ず、SHIROBAKO非公式画像はソースデータにバラつきがありますよね。データ、統計というのは個々の要素について同一条件を前提に(実施期間や設問の内容等の)、が必要最低条件であり、また調査においての属性(年齢、性別、生活環境など)まで提示されて初めて一定の根拠を示すものでありますね。

少なくても日本アニメーター・演出協会(以下JAniCA)が調査したものについてはそれが認められるので、この実施データを基にグラフを組むのが適当かと思われます。

 

NHKの報道についてはJAniCAの2015年実施調査から導いたものです。

「アニメ若手制作者 」としたのは、先に説明しました広義の意味でのアニメーターと狭義の意味を混同させないための配慮と感じます。

しかしこの「年収110万」という数字の根拠となっているのは、アニメ制作工程の一つ、「動画」のデータを基にしたものなのです。

NHK報道の「アニメ若手制作者 」ではアニメ制作従事者の若手全体が低賃金だという誤解を与える可能性があります。(少なくとも社員として契約している業務が多分に含まれますからやはり賃金も大きく変わってくるのです)

わかりにくいので図を作ったよ。

アニメ体系図

わかり・・・やす・・くない!!が、一般的にはこんな感じかと。勿論もっと沢山の人が関わっていますけど、おおまかに出しました。

背景さん、仕上げさんは歩合給のところも多そうですが、まぁこんなもんです。

ご覧のようにNHKニュースは「アニメ制作者の若手」というのを全体のセクションの中のほんの一部から抜き出したといっていいでしょうね。

それでは動画マンの賃金は本当のところどうなっているのでしょう?何がどう問題であるのか。先に出たJAniCAの「アニメーション制作者実態調査報告書」を用いて、見ていきましょう。

 

 

※3P.A.WORKS制作のテレビアニメーション。SHIROBAKO(白箱)とは完全パッケージ(完パケ)前の状態で、局に納品の際のテープが入った白い箱、もしくは納品後に確認用にと関係者に配られる白いDVD-Rのことを指します。

すごく関係ないけど、テープと聞いて「ん?今はBlue-rayじゃね?いやいや、外付けHD渡し?ネット納品じゃなくて?」アニメに限らずテレビ納品時は今でも「テープ」です!!HDCAMでけんさくぅ!

 

 

早速見てみるよJAniCAの報告書

はいドン!(雑ぅ

houkokusho

『アニメーション制作者実態調査 報告書2015』が(以下白書と表記)pdfで公開されておりました!120ページくらいあります。ふぇぇ

はい全部読んだ!

アニメーション制作業務全般、つまり前段で説明した「広義の意味でのアニメーター」実態調査です。(監督とか演出とか制作とか背景とかみんな含めているやつね)

この白書、興味ない人には苦しいけど実にオモシロイというか・・・。

特に50項に及ぶ自由記述の部分。ある程度精査されているけど、今アニメ業界が抱えている問題の全てが生の意見として掲載されています。

回答者属性をちょっと見ると、男女比率は全体で男性60.1%女性39.3%(全体の平均年齢34.27歳)

男女比率は職業によって変化するので、比較する意味はありませんが、皆さんが思っているほど、女性は少なくないです。作画は半々くらい、制作はやや男性が多い印象(大手は女性のが多いかも)。

就業年齢比較は男女平均40±2歳程度(厚生労働省発表参考)なので、普通の一般企業よりは随分とやっぱり若い人が多いんだなー。

興味本位で調べたらゲーム業界(34.6歳)と殆ど同じなんだなーフーン

婚姻率・・・おお、もぅ・・・。(そのうち取り上げたい)

本題。

「アニメ若手制作者 平均年収は110万円余」 これね。そうそうこれこれ。

これは白書より、動画マンのデータを元にした話ってことは先ほど説明したとおりです。

細かく見ていきます。

動画マンの実態 

平均年齢(24.4歳)

平均仕事経験年齢(2.7年)

アニメ制作者の中では一番の若手です。

そして、平均年収(111.3万円)となっています。

就業形態が自営業、フリーランスを合わせて(55%)正社員、契約社員を合わせたものが(32%)となっています。無回答(13%)

確かに一般的な年収としては低いが、言うほど悪い状態でもないんじゃない?とお思いの方もいそうです。

1から説明しましょう。

この動画マンという役職ですが、作画においてはまず初めに就かされる役職です。というのも、絵を動かすことにおいて、基礎が詰まっているからです。線の引き方から始まり、原画のポジションを学び、デッサンを学びといった感じです。アニメの動きの設計図(タイムシート)の読み方なども、ここで学ぶこととなります。

いきなりですがこの動画マン、白書等のデータでは示されてませんが、

10人のうち6人は一年以内に辞めます。

翌年は残った2人辞めます。

やっぱり(111.3万)が給料的にキツいのか?と思いますか?節約&根性あればなんとか暮らせるだろう?そうですよね。

111万円もあれば正直ウハウハっすわ。

先にわたしが、どの報道も「正しくない」と言った点の一つがこれです。実際1~2年目の動画マンは年収70万程度が普通です。

一人前の原画マンになるには貯金、もしくは親からなどの援助 が絶対必要です。

なーんでこんなことがまかり通っているのか?

先ほどの図でお気づきになった人もおりましょうが、この動画マンという仕事(動画に限らず原画も)。殆どの人が完全歩合給です。

「あれ?正社員(契約社員)も(32%)いるじゃん?」

はい。データにそう書いてありますね。

ただ、先に書いたとおりこの白書のアンケートに答える前の段階でどれだけの人が辞めているか、ということを忘れてはいけません。

その年に辞めていった人がアンケートに全員答えていたらどうでしょう?このデータ、もう少し変わってくると思いませんか?

 

白書で答えている多くの動画マンは既に生き残った存在です。「支えて貰う環境に恵まれていた者」、「貯金をしていた者」、「才能があって早い段階で枚数をこなせた者」、この三者しかいません。

その生き残った人たちの平均年収が(111.3万円)という事態、これが問題なのです。

なかには動画だけで生活している人もいたりして、この人たちは本当に動画に特化したプロフェショナルなので社員契約の人がいるのも頷ける形ではあります。(それでもこんなに社員いるか?という実感ですが)

 

辞めた人にアンケートはできません。その理由について推し量ることしかできませんが、多くは金銭的事情、激務による体調不良が殆どかと推察します。

完全歩合給について

動画だけでなく、原画も歩合給が殆どです。アニメ制作会社はそれぞれ個人事業主として契約します。

会社が提供するスペースの中で、一人ひとりが個人で商売やっていると思ってください。

ですので(かなりグレーですが)労働基準監督署のいうところの最低賃金や、労働時間制約がありませんもちろん残業代もありません。雇用保険、社会保険、厚生年金、もちろんありません。画材も(提供される場合もありますが)基本自分で購入です。

テレビシリーズの一般的な動画の1枚あたりの単価は190円前後ですが、150円程度の単価も珍しくはありません(単価100円とかも存在します)

 

休みは週に1日あるのが確定してればまだ良いです。

白書のデータでは一ヶ月平均作業時間 動画251時間)原画(L/O、第二原画)(270,271時間)

一ヶ月平均休日動画5.1日)原画(L/O、第二原画)(3.4日,4.5日)となっています。なかなかの過酷っぷりですね

 

 

A1_line

動画の絵がこちらです。ウチでやった仕事の中で版権に引っかからないものが少なくてこんなのしかなくてゴメンナサイ・・・

 

この動画(動いてないけどね)の場合A3サイズくらいの大きさです。原画の人が描いたものを丁寧に清書してこれが200円。もちろん小さいものでも1枚200円ですがね。

1日に15枚(これ結構できる人の枚数ね)描いたとして、1日3000円。複雑なキャラクターの顔の振り向きだったりだと、10枚いかないかもしれません。

2000円×25日=月収75000円

先ほど制作会社は場所を貸している。と書きました。貸しているということは場所代が取られたりします。10%~25%と各社マチマチですが、支給から引かれるところが多いようです。それに交通費、おっと画材も自分で買わなければ。鉛筆、色鉛筆それぞれ一本2日くらいで使いきります。粗悪なものは芯に混ざりものがあってだめですから日本製の鉛筆です。

源泉10%(これは確定申告で取り戻せます)引いて手元に残るのは55000円前後だから泣きたくなりますね。

アニメーターあるあるとしてよく聞くのが、物の値段を全部動画○枚分や原画○カット分とそらんじて計算するそうです。映画は動画9枚分、ファミチキは動画0.7枚といった風に・・・。正に自分の手で稼いでる感覚ですかね。

 

それでも10年くらい前はそれでももう少し稼げたのです。

単価230~250円くらいが平均的でした。たまに来るパチンコ案件などは倍単価(500円)でしたが、それもコナレてしまって通常の値段です。

細かい話ゲームのボーナスステージみたいな簡単な処理が沢山あったのですけど現在では廃止、もっと細かい話だと口パク等も一枚減りました。※4

制作段階で厳しく例えば3000枚を超えるな、とかいろいろ厳しいようなんですね。

 

紙も大きくなってます。

 

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上の紙が3:4アナログ波時代のスタンダードサイズです。大きいのがビスタサイズ。地デジ以降のHD画質に伴い画質を担保する為、紙も大きくなりました。描くスペース確実に増えていますよね?それでいて求められるクオリティーも上がっていく傾向にあるというのが狂気の沙汰です。

※4 口パクは通常三枚構成(閉じ口、中口、開き口)なのですが、近年はもっぱら閉じ口描きこみというやつで上から重ねる方法で一枚節約させるのです。チリツモで結構痛い

 

動画業務は消滅の危機?

制作会社としても動画で収益を上げることは難しく、動画部署単体として保持するのが難しくなっています。私見ですが全盛期の半分以下、もしかしたら1/10程度まで少なくなっているかもしれません。

大手制作会社はどうしても国内でやらなければならないような難しい作画のカット、絵を崩したくないカット(監督、演出からこのカットは社内(国内)で!とト書きがあったりします)の為にしっかりとした動画部署を有してますが、それ以外の中小制作会社は研修としての機能がメインになっているようです。それも昔ならば三年の下積みとしていたものを1年、半年と期間短縮して早めに原画にしてしまうと聞きます。

本来はそもそも独立して存在するべき業務なんですよね。使うスキルが全く違いますから。動画で長い人は本当に見事です。原画の人よりも数倍上手かったりもします。

 

じゃあ問題である動画がなくなって問題は解消する?

そうはいきません。研修期間が短くなるということは、技量が十分でないまま、難しい原画作業をやらなければならないということです。

一年間薄給で動画を頑張って、ようやく慣れてきたところで原画に上げられてしまいます。しっかり動画をやってきた人でさえ、一時的に大きく収入を落とします。使う技量が全く別のものになるので無理もありません。ここで辞めてしまう人もいますし、動画に戻ったりする人も結構おります。原画になっても歩合ですから、厳しいことには変わりません。

今まで人の描いた絵を使って描いていたのに、白紙の紙で一から描かなければいけないのですからね。

日本アニメ全体にとっても勿論良くありません。宙に浮いた動画という作業、こちらはどこにいくかというと中国、韓国、インドネシアなどの東南アジア諸国で、現在完全に依存しています。

質も良くありません。当然です。動画作業をしている人たちは自分たちの目の前にある動画がいつどこで放送するアニメかなんて知らないのです。知ったとしても日本での放送ですから見ることはできませんよね?モチベーションもあったモンじゃない。

クオリティーが低かったとしても日本側が文句を言って戻したりということはありません。2、3日後には放送ですから正直そんな余裕ないんですよね・・・。

最終的に画面に映るのが動画の絵ですから、ここの質が下がると非常にまずいのです。

他の業務だって十分ヤバい

今回取り上げたのはアニメ制作業務の「動画」や「原画」についてでしたが、他の「制作」「撮影」「仕上げ」や「背景」といった業務に関しても収入おいては動画原画などと比較して安定しているものの、過酷であることは変わりありません。

特に「制作進行」※5は原画、や動画をやってくれる人を探すために腐心し(断られまくりますヨー)、朝方までカットの回収に回ることが2ヶ月続き、上から下からスケジュールで詰められ、文句を言われる立場です。飛んでしまう(来ない、連絡もつかなくなる)ことが一番多いのがこの業務です。精神的に一番厳しそうです。

制作工程の末端に当たる「仕上げ」や「撮影」にしても、迫る放送日との戦いですから、こちらも負けず劣らず過酷。

最低賃金を大きく下回る働きかたをどこもやっちまってるんです。

 

※5主にアニメの話数を担当し、スタッフの確保、進行管理、各フローでのカット提出、回収、アテンド、打ち合わせの立ち合い等の業務を行う。アニメーターと負けず劣らずの激務と言われる。アニメ制作業界において○○制作(話数制作、設定制作など)となっていたらディレクターに相当するものと思って良いかと。多くの場合制作会社の社員として雇用契約する。

 

では何故アニメ業界は破綻しないのか?

他の業種では考えられないほどの人材の供給(過多)がアニメ業界を支えているといっていいかもしれません。

声優をも含めると毎年一万人以上もの人間がアニメ業界の門を叩き、安い賃金、長い拘束時間、無休の末殆どの人が去っていきます。ほんと超勿体ない。

アニメ業界は頭のよい者から辞めていくなんてとんでもない皮肉です。でも優秀な人、本当に去りますからね・・・。

本当ならとっくに破綻している状態。穴の開いたバケツ火消しているようなものですよ。

 

まとめ

このままじゃいかんだろうという、アニメ業界から懸念する声も当然上がっています。

今回のJAniCAによる事実確認を含めた白書もそうですし、新人に金銭的補助を出す制作会社も増えてきているようです。

著名なアニメ監督も声を上げて待遇改善に向けての働きかけも見えてきました。

ただ一方で「日本アニメ自体が一度滅びたほうが良い」という意見もが内からも上がるようになり、やはりその深刻さは以前より増している印象です。

 

私個人の意見や提言などは今回は控えるとしますが、それもつまらないので少しだけ上げるとすると。

適正な製作費とスケジュールの確保     ざっとみて最低二倍程度が必要なように思います。収益化方法の更なる模索が必要です。

製作フローの見直し               無駄に思えるような工程がいくつもあります。それに伴う人員の整理も必要でしょう。

ITによる効率化                  フローの見直しとセットで。作画のデジタル化の議論はまた別の話ですが。

それができたら苦労しないっての。って感じだけど(特に製作費ね)少ない投資で改善できるところはマダマダたくさんありますよね。

 

今回NHKより端を発した「アニメ若手制作者 平均年収は110万円余」という報道により、特に業界外からの意見が持ち上がったのはとても良い機会であった思います。

ネットは水モノですから議論が再燃することはなかなか難しいでしょうが、あとはアニメ業界全体で共通の問題意識の元模索していく他ありませんね。

とりあえずうちからの発注は相場の倍単価で!いき!た!い!頑張って製作費引っ張る!!

 

ふぅううーーーツカレタ。こういう長いやつはあんまりやりたくないね!あはは!

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